ある夜、とある海域。
穏やかな波と風に恵まれて航行中の、一隻の船がいた。
天候に特に問題もない真夜中のこと、見張りと少数のクルー以外は皆寝静まっていた。
マストの上、見張り台には若い小柄な船乗りがひとり、退屈そうに海を見つめている。
船乗りの名はブギ。年の頃は十前後だろうか。東洋人は幼く見えるというから、本当のところは分からない。
かくん、と頭が傾き、はっとして頭を振る。もう何回もそんなことを繰り返している。
暗い水面には長らく、揺れる月の光以外映っていない。
しばらくののち、重たいまぶたを持ち上げながら、ブギはすぅと息を吸い込んだ。
「…おい、何か聞こえねぇか?」
「んあ?」
風がその歌声を甲板近くに運んだようで、起きていた数人のクルーたちが辺りを見回し始めた。
耳を澄ます。
甲高い…風の音?違う、確かに人の声だ。
歌声だ。